12月分 監査の違法性と聴聞

2023年11月30日

 長野市の放課後等デイサービスが,指定取消の予告を受けて聴聞手続が開始された。ところがこの聴聞は途中でとりやめになった。

 少し前に,長野市長は法人の運営する3事業所について児童福祉法の規定に基づく監査を実施し,人員基準違反等があるとして行政手続法の聴聞を開始し,事業者は危機一髪の状態にあった。

 監査の途中から立ち合った私(代理人)が調査したところ,行政庁は,立ち入り監査の場面で,監査通知を交付する際,児童福祉法の根拠規定を誤って記載していたことが判明した。

 重要な点だが,事業者も見落としていた。

 行政庁は,法令上の根拠に基づき,事業者に対して立ち入り監査を実施することができる。そして,監査を妨害したり質問に答弁しなかったりすると,不利益措置をすることができる強力な権限だ。

 しかし事業者側の重要ポイントとして,根拠法令の条例を誤った行政監査は違法だ。

代理人のアドバイスによって,事業所が行政調査に違法性があると指摘し,地裁に国賠法1条1項の損害賠償請求を提訴した。

 監査は,令和5年8月頃から開始され,事業者が代理人弁護士を通じて監査の違法を指摘した時期は,令和5年10月2日である。

 行政庁が聴聞をする旨通知したのは,同年9月頃,聴聞期日は一回変更されて同年12月15日に指定されていた。その聴聞が取りやめられたのは令和5年11月13日だ。

 行政庁が聴聞をとりやめた理由は通知に記載がないため不明だが,職権による聴聞手続の廃止だから,事業者からとくに文句はいえない。

監査は処分だ

 監査というと会計監査のように見るだけ,と思う人もいるかもしれないが,正式な行政処分だ。公権力の行使として,住居に侵入して,一定の私人に対し,帳簿書類の提出を命じたり,報告を命じたりできるが,国民の側からすればたいへんな人権侵害行為だ。

 帳簿書類の提出を命じられると,一定期間当該帳簿書類を行政庁に持って行かれることになる。提出命令は,国民の側からは拒否できない。だから行政処分としてなら,行政庁は帳簿書類の提出の際,当該処分が取消訴訟の対象となることや,提出命令に対する不服申し立てを教示すべき義務がある。

監査は私人に対する脅威となるのだから,もっと問題意識をもって慎重かつ丁寧に行うべきだ。