11月号 行政の力量

2024年11月25日

行政の力量

 先日某行政庁から,聴聞決定予定日として指定された日(仮に10月10日としよう)があったところ,10月10日を聴聞の期日とするという聴聞通知が届いた。これがおかしいとわかる人は専門家だ。

聴聞決定予定日の通知というのは,監査のあと,行政庁が監査対象の事業者に告知するものだが,その時点では監査中だからはっきりしたことはいえないから,予定日に聴聞するかどうか決めますよという予告だ。その予定日を聴聞期日そのものとする趣旨ではない。 ところが自治体職員のなかには,聴聞決定予定日が,聴聞期日だと誤解している人もある。行政職員といえども,全員が特定の行政法令に精通しているとは限らない。介護保険課や障害福祉課に配属されて間がない職員はなおさらだ。

 

 職員の研修にも行政によって差異がある。 行政庁は民間事業者の指導監督にあたるのだから,間違ったことを指導することはできない。そうすると,常日頃からから指導監督するのに必要な関係法令の規定の知識を補充する必要がある。行政庁として専門家を育成することができるか,これが行政庁の力量だ。

 法令違反があるため処分をしようとしていた事業者から,突然事業廃止の届出が届いた。その届出を素直に受け取るのが力量のある行政だ。反対に,受領しないで突き返したりするのは力量がない証拠。なぜなら,届出は申請と異なり,審査を要しないうえ,届出事項に不備がないときは到達したら完了するものだからだ。韓国では届出のことを,無審査申請というらしいがそのとおりだ。

力量の目安

 力量の目安となるのは,聴聞なら手続保障という意味を理解しているか,処分の選択なら法令の趣旨を理解しているかなど,行政職員自身の知識,経験,そして素養だ。

 法令違反があるとき,加算のミスがあるだけで指定を取り消すのは力量がない行政庁。加算のミスに加えて書類の改ざんがあるときに,重い処分を選択するのは力量がある行政庁だ。処分は重い方から指定取消し,効力全部停止,一部停止,勧告と段階があるが客観的な基準に照らして安定的な処分を選択できるか否かは,行政の力量による。

 聴聞手続を一回で終了させようとする自治体がある。期日の変更は一切認めず,期日で事業者がなにをいおうとその日で終結してしまう自治体もある。一方では,主催者が,行政庁の職員に質問をしたり,証拠の提出を促したりするところもある。そんなとき,行政対応専門弁護士としてはその自治体の力量を感じるのだ。