7月号 公務員に対する反対尋問
■証人尋問の技術論
裁判でむずかしいのが敵性証人に対する尋問だ。 敵正証人とは,相手方当事者がだしてきた証人のこと。つまり敵方の証人だから敵正証人という。敵性証人に対する尋問のむずかしい原因は,本当のことをいわないからだ。およそ証人は,自分が体験した事実を正直に陳述する。正直とは記憶のとおりにという意味で,「そうです」とか「ちがいます」とか,ときには自分の記憶だと思いこんでいるとおりにいう。
敵性証人の場合,事前に尋問を準備することはできない。事前に近づくことも困難である。ぶっつけ本番だ。証人の立場からみても,相手方弁護士から嫌な質問をされるのだから,たまったものではないだろう。
ところが反対尋問にもセオリーがある。それは,誘導尋問に徹底すること。誘導尋問を知らない方にはへんな感じがする方も多いだろうから説明する。
誘導尋問というのは,弁護士が「こうですね」「ああですね」など,客観的な事実を指摘して,「はい・いいえ」で回答させる方式の尋問だ。
主尋問で,誘導尋問をすると「異議」がでる。誘導尋問は答えを押し付けているから違法だといわれる。
これに対し,誘導尋問は,客観的な事実を具体的に指摘して質問するのだから,反対尋問で誘導するのは適法となる。主尋問で現れた事実,あるいは証拠から明らかな事実は,誘導してかまわない。
誘導尋問のメリットは,尋問する弁護士に,証人がする答えが事前にわかっていることだ。うまくやれば,誘導尋問を繰り返しすることで,証人の回答をコントロールすることができる。自分が示したい事実の方向に,証人の証言を誘導するのである。
敵性証人の場合,この誘導尋問を使えないと,痛い目にあう。敵正証人に面と向かって「いま,あなたがいったことはウソではないか」などと質問したら,「本当です!」とキレてしまうだろう。顔を真っ赤にして,たくさん理由をならべて,自らの正当性を主張する。
介護行政訴訟は行政庁が相手だから,公務員に対して反対尋問をすることがある」これがむずかしい。なぜなら,公務員は所属庁に不利なことはいわない。こちらが期待する回答はほぼ得られない。だから,できる限り誘導尋問を使うことになる。事前に証拠を精査して,否定することができない状況をつくりだせば,敵性証人だって,事実を認めざるを得ない。誘導尋問スタイルをより高度な尋問技術として完成し,自由自在に使いこなせるようになる必要があるのだ。