5月号 デイサービス送迎死亡事故についての一考察
1 送迎事故
高齢者介護施設では、高齢者の利用者を自宅からデイサービスまで送迎することがあります。送迎は自動車でしますが、近年、送迎中の事故が多発しています。
2 死亡事故
令和2年6月、佐賀市内で、送迎中の車両が道路脇のクリークに転落、乗っていた3名の利用者が死亡し、1名が負傷するという事故がありました。
3 運転者の刑事裁判
令和3年4月14日、佐賀地方裁判所にて、その事故の運転者(以下「甲さん」といいます)の、自動車運転過失致傷罪の裁判がありました。
以下は、裁判で傍聴した内容です。
甲さんは、その介護施設に就職して4ヶ月でした。デイサービスの管理者をしていたようです。仕事はおおむね日勤が主体でした。
デイサービスの送迎は、とくに決まった運転手はいなかったようです。甲さんによると、事故の時までに送迎運転をしたのは、5,6回目だったそうです。自動車免許を持つ人が2人しかいなかったため、もう一人に負担がかかるのを気にしていたようでした。
甲さんは、その事故の時、一時的に意識喪失状態だったそうです。つまり、転落の前後は記憶がないのです。
当日、午前8時過ぎから勤務だったようで、体調不良により熱があったそうですが、ほとんど休憩はとっていません。
介護従事者が少ないのと、甲さんが管理者という立場上、休憩をとりづらかったように思います。
検察官は、体調不良であれば、運転を停止するとかすればよいのに、そのまま運転を継続したことが注意義務に違反するといいました。甲さんも弁護人も、それは争うことなく、1回で結審し、検察官の求刑は禁固3年でした。
気になる点が二つありました。ひとつめは、この事故の1ヶ月前にも、甲さんは意識を失うことがあり、わざわざ脳神経外科を受診していたことです。短期間ですが仕事も休んでいます。
ふたつめは、脳神経外科で、異常なしと診断されたあと、業務に復帰したことです。その意識喪失と、今回の事故の時の意識喪失は因果関係が不明です。
4 会社の責任
この裁判では、会社の責任は、ほとんどなにもいわれていませんが、休憩も取れない、かつ、体調不良の職員に、送迎車を運転させた会社の責任は重大です。
というのも、会社は行政に送迎費用を請求します。デイサービスの送迎は無料ではありません。有料であれば、それにみあう責任を負担するのが当然です。
実は、送迎車の運転に、タクシーのような2種免許は不要です。それは、タクシーはだれを乗せるか決まっておらず、どこまで運ぶかもわからないから。いっぽう、デイサービスの送迎は、同じ利用者をいつも自宅とデイサービスの間を送迎するからだといわれています。しかし、たとえ2種免許はいらないとはいえ、今回の事故のように、疲労が蓄積し、体調不良の状態にある介護職員に、送迎車の運転をさせるのは疑問です。
甲さんの供述によれば、介護事業所の社長は、甲さんの親戚のようでした。
ですから甲さんは、本当は送迎車の運転について休みたいなど要求したかったのに、社長に対してできかったのではないかと思います。このように会社の責任を見落とした点で問題の残る裁判でした。